日本の伝統を継ぎ、思いを継ぐ“灯り”
2014年1月9日
※ この記事は以下の特集取材時のWeb加筆版になります。
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今回「灯り」特集を制作するにあたり、お話を伺った方がいる。
その方は、“照明作家”谷俊幸さん。——日本の伝統工芸の技術を使いながら、現代の生活スタイルに合う、オリジナルの照明を作り続けている人だ。
実は、数年前、キャリアスクールでエディターの勉強をしていた時、卒業制作のフリーマガジンに谷さんの作品を掲載させてもらったことがある。
その時から会うことを切望していて、かなりの時間が過ぎた今、たまたま事務所移転のオープンハウスということで、新築の事務所に伺うことができた。
施工は「RCエイジ」という鉄筋コンクリート専門の注文住宅の会社。コンクリートのすっきりとした明るい室内に谷さんの作品が映え、和とモダンの融合する空間になっていた。

屋上からの眺望も、コンクリート住宅の特長の一つ

工房が一体となっている一階の空間は、昔の日本家屋のような懐かしさを感じさせる。
谷さんの代表作である「WAPPA SHADE」は、秋田の「大館曲げわっぱ」の技術を継承し作られている。
「日本の伝統工芸が途絶えようとする中、その技術は海外に輸出され、そこで作られ逆輸入された物を、日本人が喜んで買う。こんなに良い物が身近にあるのに、そのことに気がつかない。その良さを伝える人がいないのなら、自分が伝えよう」―—そんな気持ちが、始まりだったという。
まずは自分自身が技術を学ぶため、谷さんは秋田の「大館曲げわっぱ」の有名な職人の元に行って弟子入り志願をする。が、にべもなく断られ、それ以降展示会等がある度に秋田に行っては弟子入りを志願し、また断られを繰り返した。
そして半年も経ったある日、電話があり、「教えてやるから、家に来い」とようやくOKをもらう。
谷さんはその日のうちに荷物をまとめ夜行バスに乗り、翌日の朝には師匠の家の前にいたそうだ。
弟子入りを断っていたのは、「日本の伝統工芸を半端に扱ってほしくない」という、職人だからこその思いからだったという。
秋田の「大館曲げわっぱ」は、秋田杉を熱湯につけ、あるタイミングで曲げる。そのタイミングを外すと、すぐに折れるか、またはその場は形になっても乾けば折れてしまう。
自らの手で何百回と繰り返し、そのタイミングを覚えていく。
「だからWAPPA SHADEは、すべて自分一人の手作りなんです」。そう言って見せてくれた谷さんの右手は、こぶしを作ると、親指と人差し指の間にこぶのような筋肉が盛り上がる。小指側の側面も同じようになっていた。
「師匠もそうですが、職人はみな、グローブのような手をしている。その手に憧れた」と言う谷さんは、自らを『照明作家』と呼ぶ。
職人でもなく、デザイナーでもない。
「デザイナーは、デザインはするけれども、素材や材料のことを100%分かり、活かせているかと言えば、そうではない。また職人は、伝統を守りながら同じ物を作り続けることが善という考え方。でもそれでは、時代に即した物でなければどんどん先細りになる。だから自分は、その両方を兼ね備えた物を作ろうと思った。日本の伝統工芸の技術を使って、時代に合う新しい物を造り出す」。
今までと同じ物を作るための技術ではなく、その技術を生かして今の生活に即した物を作れば、形は変わっても技術自体は継承されていく。
なぜ「照明」なのか、谷さんに尋ねてみた。
元々、インテリア全般を手がけていた谷さんは、あるとき、自分の作品をある家庭に納品した。ところが、そこで見てみた自分の作品の“かっこ悪さ”にびっくりしたのだという。
「照明が、何の変哲もない普通の白色蛍光灯だったんです。その下で見たら、かっこ悪い蛍光灯の下にかっこ悪い物が置いてあるだけだった。
だから、その一番の原因になっている物を、なんとかしようと思った」。
谷さんの作品を語る上での基礎となるのが、「影の存在を知ることで光の存在を知る」という言葉。
照明そのものの形はもちろん、その照明が作る影のうつくしさは、夜、暗やみの中でこそ際立つ。
「照明作家」という名称が作品とともに広まった今、それでも作品は基本、一人で受注生産している。
特にWAPPA SHADEは、谷さん本人が一人で制作しているという。
「弟子にしてくれ」と言ってくる人もいるが、そういう人には「職人さんのところへ行って学んでください」と答えることにしている。
「教えたくないというわけではないんですが、自分のところに弟子入りしても、作る物は『谷 俊幸』の作品になってしまう。その形になってしまうのではなく、職人さんに教われば、それをさらに自分のスタイルにできる。新しい自分だけのオリジナルを作ってもらいたい」と。
谷さんの作品は、遠くサウジアラビアのフォーシーズンホテルやリッツカールトンホテルの客室でも見ることができる。
日本の伝統工芸を、自分だけのオリジナルの作品として昇華させていく。それが日本のオリジナルの美として、世界に受け入れられる。
そうして形のないものが形あるものとして受け継がれていくことは、日本という国が世界でただ一つの国なのだと認識させるのに十分だ。
そしてそれを、日本人自身に知ってもらいたい。そう切望しながら、谷氏は、自分だけの照明を、これからも作り続けていく。

曲げわっぱの技法を用いた「花火」。素材に秋田杉を使用する事によって、視覚的インテリアと嗅覚的インテリアを実現させた。明りを燈すことで杉独特の香りが楽しめる。
谷 俊幸さんのHPはこちら
RCエイジ
0120-709-812